煙ズム
ども、むラサきです。合法で読む、Tetra hydro cannabinol ( T H C ) 煙ズム
お読みいただけましたら幸いです。暫し、お眼々をお汚し下さい……
ご意見ご感想などございましたら、お気軽にお寄せ下さい。
では、暫しのトリップを…… by むラサき
煙ズム
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第1話 Pink Star Burst
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第 2 話 Bruce Banner #3
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第3話 AK - 47
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第4話 L S D - Barneys
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第 5 話 Durban Poison
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第 6 話 Gorilla Glue #4
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第 7 話 Tutankharmun
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第 8 話 Chiquita Banana
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第 9 話 Sour Diesel
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第10話 Girl Scout Cookies
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第11話 Pineapple Chunk
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第12話 Lemon Skunk Silver Haze
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第13話 Nova O G
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第14話 Liberty Haze
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第15話 Blue Dream
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第16話 DJ Short Blueberry
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第17話 Crystal METH
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第18話 Blissful Wizzard #420
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第19話 Satori - Mandala
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第20話 Assassin
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最終話 Prison Ultra Haze
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第1話 Pink Star Burst
第1話 Pink Star Burst
宣言
バビロンニ散在シ真実ヲ知リ得ル民ヨ、覚醒セヨ!
数多ナ時ヲ不当ナ権力ニ弾圧サレ続ケテキタ兄弟タチヨ、団結セヨ!
吾ラハ幾度トナク平和リニ自由ト開放ヲ国ニ求メタ。
憲法第13条・個人の尊重・生命・自由・幸福追求ノ権利ノ尊重
憲法第14条第1項・法ノ下ノ平等
憲法第19条・思想及ビ良心ノ自由
憲法第25条・生存権・国ノ生存権ノ保護義務
憲法第31条・法延手続ノ保証
憲法第36条・拷問及残虐ナ刑罰ノ禁止
国ハコノ憲法ニヨル能書ノ下、権力ヲ横暴ニ行使シ、汚イ遣リクチデ人ノ尊厳ヲ踏ミニジミ、カエッテ多クノ兄弟達ガ罪ナキ犯罪者ノ烙印デ額ヲ焼カレ、管理サレ、謂レノ無イ罪ノ汚名ヲ背負ワサレ、獄中トイウ名ノ強制労働収容所へ送ラレテシマッタ。
コノ狂気ノ現実ヲ目ノ当タリニスルナラバ、人ヲ家畜化シテ暴騰シ続ケル国ノ行為ニ、自ラ真ノ自由ヲ求メ解放セントスル者ノ社会的行動ヲ起コセルハ寧ロ必然。
兄弟ヨ、吾々ノ真ノ敵タル者ハ、政府ヲ自在ニ操リ人ヲ人トモ思ワヌ人間ノ皮ヲ被ッタ死神デ有リケモノ達デ有ル。奴ラノ巧ミナ工作ニヨッテ民ハ洗脳サレ、病気ニサセラレ続ケテイル。目ハ開イテイルガ真実ハ何モ見エズ、眠ラサレテイル。ソシテ露骨ナ血族階級社会ノ生ケ贄トシテ、病気ニサセナガラ生キ血ヲ吸ウ。
吾々ハ奴等ヲ知ッテイル。
民ハ呪ワレノ悪夢ノウチニ盲目ニ死神ニ誘導サレ、何モ気付カズ自ラ進ンデ死ノ階段ヲ駆ケ上ッテ行ク狂気ノ世界ニ生キテイル。
今、真実ヲ知リ得タ民ガ覚醒シ、多クノ民モ眠リカラ目覚メル時ガ来タ。
吾々ハ自由ノ実行者デアリ、国ノ洗脳政策ノ奴隷デ有ル事ヲ断固拒否スル。
吾々ハ人間性ノ原理ニ覚醒シ、人類最高ノ次元到達ノ完成ニ向カッテ突キ進ス。
ネフィリムハカクシテ生マレタ。
人ノ世に支配ナキ自由アレ。
人間ニ光アレ。
吾々ハ必ズヤ永住的ニ魂ヲ呼ビ起コス革新世界ヘ到達スル。
サア、己ヲ解放シ、種ヲ育テヨ……。
「薬をもったな……」
6号室の男は愛らしく佇む女に言った。街中に溢れる広告やCMでつねに繰り返し何度も眼にする女は女神のように美しく、バビロンの聖なる女神の化身はいつものように繰り返して何度となく同じ事を言う。
「すべての辛い症状に、速攻性の効き目があなたを救う。朝、昼、夜。1日3回毎日続けてお得な増量パックで新登場……」
ふくよかに高鳴る混沌な胸のふところに、外にそりかえした白くしなやかな両手の平で△を作ると、透き通るガラス細工のような細い指で完成された△から片目をのぞかせた。
「存在するものはすべて光り……」
火をともし、そこから出るケムリを吸う。火を支配することができる人間にだけ許された神、プロメテウスの力とでもいうものか。そもそも立ち昇るケムリにつつまれた真実の行方に、本能というものが感じる狂気に満ちた世界も、ケモノの
微細な粒子の塊がゆらぐ白いケムリが口と鼻から大量にあふれ出て、遠く闇夜に広がる黒い海へと吐き出される。0・01ミクロンのケムリが無風でよどむ東京湾の空へ、まったりと革新を持って舞い上がってゆく。
腕や足にプロテクターを付け登山用のザックを背負い、テント・シェラフ・毛布を括り付けたモトクロスバイクに跨り、ドブ臭く薄汚れた暗い海を眺める
バイクのエンジンを掛けると股の間に鼓動する鉄の塊を感じる。エンジンを吹かし、コールタールみたく黒光りした海面に浮かぶ貨物客船の船底へバイクを滑り込ませ、トラックやコンテナなどが隙間なく積まれた駐車スペースの奥にバイクを固定する。
船のフロントで卍は個室の鍵を受け取り、緩やかに上下する客室通路を進んで巴と一緒に部屋へ入った。小さなシングルベッドが二つ置かれた狭いワンルームの個室には、壁に丸い窓が一つ有って外の黒い海面がのぞける。二人は背負っていたザックをベッドの上に置き、腕や足に取り付けたプロテクターを外した。
「Hビデオでも流してるんじゃない? 」
TVのリモコンを卍がいじると映画が映り、懐かしい音が耳に触れる。巴もTVに眼をやると、画面には Easy Rider が映っていた。
動きを止めて顔を見合わせた二人は、気が効きすぎて間の抜けたデジャヴみたいな感じに失笑するも、TVのボリュームを最大に上げる。 J Hendrix の歌う If 6 Was 9 に、乾いたギターのリフが外の通路まで響き渡れば、しだいに大きくなってきた船のエンジンの鼓動とギターの波動が共鳴するように、船は巨体を陸からゆっくりと離し始める。
空と海との境もない暗黒へ汽笛を鳴らし、船の巨体が海上へと船行する。卍と巴は甲板に上がって、遠ざかる陸地に霞んで広がるバビロンの灯りを見詰めた。
生温い海風に吹かれる卍は、胸元に潜ませた
ケムリをゆっくり吸い込むと、海上の闇に赤い火が鮮やかに浮かび上がり、卍の顔をおぼろに赤く照らした。口と鼻から大量に溢れ出す白いケムリが風にゆられて、暗い海上の空へと舞い上がって消えて行く。
赤く火が灯る
鮮やかに卍と巴を捉えるバビロンの輝きが、やがては美しくも朽ち果て死臭を放つケモノの
笑えるバビロンの幻から船は徐々に遠ざかって行き、闇夜の海へと滑るように吸い込まれ、暗黒の曼荼羅へワープする。
次の日、船はどこまでも続く透明な空の下、深い
「午後には港に着くわ、そしたらここを目指す……」
眩しい光に濃い緑色のサングラスをかけた卍は、指に嵌まる
吸い込んだケムリを肺いっぱいに溜めた巴は、卍の広げた地図を覗き込み、「OK ! 」と言ってケムリを吐き出す。そしてもう一度ケムリを吸い込み
船の舳先へ凭れかかり、巴は潮風を浴びて遠く光溢れる水平線に眼をやると、大きく背伸びをして肺いっぱいに溜め込んだケムリをゆっくりと吐き出す。ケムリで覚醒された脳神経は限りなく空と海と光との堺に引き込まれるように滑り込んでゆき、空間と同化して見事に調和し、消えゆくケムリと無限の第三空間へ広がってゆく。
真紅に染まった片眼を手の平で押さえると、海を照らして眩しく輝く太陽を頭上に感じながら、無意識に蒸発した父親が持っていた本の一節を口走る。
「それは、悪が義の前から退く時に起こるだろう。悪は永遠に終わるであろう。そして義が世界の基準として、太陽とともに現れ出るであろう。驚くべき奥義を止めておくすべての者は、もはや存在しない。この言葉は確実に実現し、この託宣《たくせん》は真実である……。コレは新しい世界の基準として、新しい太陽とともに現れ出る! 」
その時卍は何かを言ったか? 光に霞んで揺らいで見えたが、笑っていたのは確かだ。巴は卍をこの世の何よりも、誰よりも信頼している。
歳は一緒の腹違いの姉弟で白人との間の子の姉の卍。親の都合で離れて暮らしていたが、高校に入って一緒の生活になる。
子供のころからテンカン持ちだった巴は、高校へ入るとヤバイぐらいのストレスに、医者から貰った薬を多めに飲んで堪えていたが全然ダメで。限界を超えると誰もいない教室で一人テンカンの発作を抑えるために、取り憑かれたように机を削って必死でいろんな図形を彫り込んでいた。
何故か子供の頃から発作が起きそうになると、巴は無意識にコンパスの針で机を削り、図形を掘って堪えていた。本人も無意識でやってる事で自覚症状が全くなく、あとで机に彫り込まれた色々な形の図形や何かのシンボルのような跡を見て首を傾げた。
そこへ卍が現れ、必死でテンカンの発作を抑えるために、震えて机をコンパスで削る巴の前に黙って腰掛けると、鞄から定規を取り出して巴が削る机の上にそっと置く。
「△にコンパス、あとは定規が必要ね……」
巴が必死に削っていた溝は、正確な△の図形だった。コンパスを持つ手を止めた巴は、虚ろに卍を見上げた。
「この△はピラミッドと同じで5次元を表している、当然よね。ここで
机に削られた△の溝の頂点を指差して卍は言う。そして黙って震える巴に微笑むと、腕を抱えて立ち上がらせ、「ちょっと来て! 」と、強引に人気のない校舎裏へ連れて行くと、「楽になるわ! 」と、火のついた
スローモーションのように口と鼻からケムリを吐き出す卍の、微かに紅く染まり始めた瞳の奥を、巴は震えながらのぞき込み、直感で卍を信用して初めてケムリを吸い込む。
肺にケムリが入ってくると体がカッと熱くなり、毛細血管が拡張して全身の毛穴が一斉に開いたように感じて、すぐに堪えきれず猛烈に咳き込んだ。咳き込むごとに目から火花が飛び散る思いがする。ケムリの糸を引く
卍は黙ってケムリをくゆらせ、紅い眼をして笑みを浮かべている……。
やがて咳が治まると、今にもテンカンの発作が起きそうな最悪の状態だったのが嘘のように跡形もなく消えていて、体が一発で楽になる。
巴の眼は紅く染まり始め、今まで自分がシンクロしていた世界と確実に違った世界へ足を踏み入れた気がして、初めて巴は多次元と魂が繋がり共鳴してゆく。
しなやかで瞬間的な心と体の変化に思わず笑みを漏らす巴は、体が宙に浮き上がりそうに感じて、「すごい……」と、溜め息をつくように口走ると、半笑いがいつまでも止まらずにいた。
それからは学校で発作が起きそうになると、内緒で卍にケムリを吸わせてもらい、巴は発作を抑えていた。日が経つにつれ巴の症状は目に見えて改善され、子供の頃から死ぬほど苦しめられていたテンカンの症状が、あっという間に完治する。
今まで自ら救いを求めて、白衣を纏った
世間的に容赦なくヒステリックで、ナイスでメディカルな内緒の火遊びは、卍と巴の魂と脳細胞を著しく活性化させる。精神衛生上夜な夜なバビロンのクラブでケムリをくゆらせ、音と光の海の底の底へと何度も潜っては、チャクラを開かせ浮上する。
もっとも感受性が多感で豊かなこの時期に、深紅に染まった瞳の卍と巴は、立ち昇るケムリの先に確かに、片眼の開く音を聞いていた。
ハーフで美人な卍はどこのクラブへ行っても特に目立って視線を集めるが、卍は男に興味はなく、左手の薬指の内側に Like, a, lady と自分でタトゥーを入れている。たまにクラブで好みの女と出会えば、姉弟でナンパした。
高2の夏の終わり、夜中にやってる西麻布の雑貨屋を出た所で突然パトカーから降りてきたゾンビに囲まれ、隠す間もなく 二人とも
たかが
いったいこの国は何をそんなに、徹底的に恐れているのか……?
卍と巴には疑念がわいていた。その疑念はだいたい見当は付いていたが、やがて鑑別所に於いておこなわれる矯正という名の全体主義的な脅しと狂気の再洗脳を繰り返しアンポンタンに施され。
残念なことに当然ながら、卍と巴の脳にも魂にもゴーストにももはや、自由は
その行為は卍と巴のチャクラをさらに開眼させて改めて目が覚めた二人は。出所後ビッチの
大陸へ渡った卍と巴は
混沌の炎に包まれし屍が一握の灰となり、風に散り大河に流れて行く様が。夕闇に包まれた大河のほとりで
火柱を立ち昇らせ灼熱の炎に身悶えする死は、大河を凍らせ美しく輝き、気の狂れそうな恐怖を食べて尚、大きく育つ。
チャクラを開く通過儀礼は、卍と巴の潜在意識の裂け目を覗き込み、植え付けられた虚構のどん底へと無限に広がる、反システムで自滅的なバッドトリップを無限ループさせてゆく。
行き切った二人はその後、雑然と下品でナイスでイケてるカオスなビーチが永遠と続く、熱帯東南アジアの眠らない不夜城に暫く住み着く。そこで小遣い稼ぎをしているうちにアジアンマフィアの一員となり、各国でゲリラ戦の戦闘に参加し、混沌の楽園で死線を超えるロシアンルーレットな日々を漠然と過ごしていると、必然的に悪魔の計画がチラ付いて見えた。
いつわりと解りきったこの世界をいまさら確かめるつもりもないが、日本へ戻って来た卍と巴は紫のケムリが誘うままに船に乗り、笑える狂気に支配されるバビロンを後にした。
第2話 Bruce Banner #3
第2話 Bruce Banner #3
「まだ汚染が残っている所があるわね……」
卍は地図でルートを確認し、厳しく検問が行われている国道は何度か迂回した。
二人は
幻のように荒廃した街並みに前輪を浮かせて奇声を上げる巴を、地図に記された目標へ導く卍は、いつしか濃い緑が密集する深い原生林の中へと分け行っていた。
巴はアレルギー反応を起こして急に調子を落とし、ザックから薬を取り出してカプセルを口の中へ放り込む。
「またヤバイケミカル飲んでんの? 」
「オレも飲みたかねんだけど、日本に帰ってくっとこうなる。TVでCMやってるこの薬、超効く! CMに出てる子も超カワイくてマジでヤバイ! 街中女神なビッチの広告で溢れかえってんじゃん! アレだよ、△から片目のぞかしちゃってる女、マジでヤバイよな……」
手に持った薬箱の△マークを掲げ、巴は△を陽の光に輝かせて失笑しながら卍に見せる。バイクに跨る卍は、薬を飲んで「ヤバイ、ヤバイ! 」と連呼する巴を呆れ顔で見ていた。
「ここからは二手に分かれるわよ! 」
目安にしていた河川を見付けた卍は川の方へバイクで降りて行き、巴は川岸の林道の方へバイクを走らせる。自分の背丈をゆうに超える緑に覆われた細い林道の中へゆっくりと進入し始めると、巴のアレルギー反応がピタリと止んだ。
林道を進むにつれ何か視線を感じた巴が密林の先に眼を凝らすと、前方のヤブから何かが顔を出してこっちをジッと見詰めている。
巴は白いシカだと気付きバイクを止めた。こっちを見ているシカの顔をよく見ると、一瞬シカの顔が完全に人間の女の顔に見えて、あせった巴は押さえていたバイクのクラッチから指を滑らし、ガクンとバイクがエンストすると、ヤブの中へ倒れ込みそうになる。
沈黙の緑に覆われ静まりかえった林道で、巴が足を踏ん張り再び体制を整えて前方のヤブを見据えるが、もうどこにも白いシカの姿はなく。静寂に
人の入ってこない原生林の、立入禁止区域における漠然とした不安に、ザックにしのばせた刃渡り30センチのサバイバルナイフを巴は取り出すと、足に装着してエンジンを掛け、何度かアクセルを吹かした。
川に掛かる地震で崩れた橋の袂で卍と合流すると、
ケムリを吹き出す卍の足にもしっかりと大きなナイフが装着されているのを見て、巴は自分たちが濃密な異界へと足を踏み入れている事を理解し、卍は巴に地図をのぞかせた。
「今日はここから10キロ下った、閉鎖されたこのキャンプ場へビバークする」
口と鼻から白いケムリを吹き出して巴が頷く。
陽はもう西へ傾き初めていたが、日没までにはまだ時間がある。汚染された立入禁止区域の原生林に潜み、真紅に眼を染める卍と巴は、再度川の上流へ向って河原を探索した。
紅く色付き始めた
川の上流へ進む卍と巴は燃えるように紅く色付く空の下、いつしか黄金に輝く河原と完全にシンクロして、まったく別次元と繋がり始める。
暫く一面金色の河原を
「あった……」
巴もバイクを止めてエンジンを切り、卍の指差す先を見詰める。エンジンを切ると河原は深い沈黙に包まれ、川の流れる水音だけが辺りに響き渡る。
「見て、
しっかりと卍が指差す先には、大きな
二人はヘルメットとグローブを外してバイクから降りると、赤紫がかった濃い緑に所々黄色く色付いたビビットな配色が、どことなく南米の毒蛙のような奇抜さで圧倒的なオーラを放ち、周りの自然から妙に浮いて見えた。何枚か垂れ下がる手の平のように大きな
二人は
軽く噎せ返るほどに良い香りを放つ丸々と太った大きな
指に付いた
「ヤッベーなコレ……。ヤッベーぞコレ……」
二人はふざけて同時に何度か言うと、紅く染まった互の眼を見合わせて噴出した。そして笑いながら拳を突き合わせる。
「完璧な
「そうね、確かに種無しの、完璧な
圧倒的な存在感と奇抜な美しさで夕陽に照らされ黄金に輝き、熟しきった強烈な香りと超自然体で神秘の波動を放つ
暫く
「ヤバッ!、
夢中で
「なに、マジで! 」
「マジで、あれに
「マジかよ? 」
巴はあわてて川面に
「まぁいいじゃない、この
巴も
「ここに1本だけ
熟した
足に装着したサバイバルナイフを二人が抜くと、夕陽に照らされたナイフがギラリと輝く。
いよいよ神懸かり的に黄金に光り輝きだした
第3話 AK - 47
第3話 AK - 47
新聞紙を引き詰めたテントの中へ黒いポリ袋いっぱいに入った
2・3 時間引きこもって
油を入れた小鍋を携帯コンロに掛けると、巴は
こんがりと揚がった
こうして、立入禁止区域で閉鎖され朽ち果てたキャンプ場のテーブルに、カップヌードルとフレッシュ
卍がストックしていた
揚げたての
すぐに効きめは分らなかった
煮立った鍋からは強烈な
小麦粉をつけたブロッコリーのような
揚げ物に没頭する巴を尻目に、卍はテントからコーヒーと毛布を持って来る。バビロンでは決して拝むこともできない天空を埋め尽くして光り輝く星々を眺めるため、毛布を被って天を仰いだ。すると徐々に星の輝きが増していくのをつぶさに感じ、卍は
猛烈な
「バリッ、クシャ、バリ、シャカ、グシャ、クチャ、ゲボッ……」
音を立てて
巴の表情からは決して人間が食べられるモノを食べている感じがまったく伝わってこない。現に巴は根性で
腹を抱えて卍が笑うと、巴は炊事場の蛇口から直接水をガブ飲みして、声を震わせ身震いを繰り返す、そして放心状態のまま椅子に座って小声で呟いた。
「チェンマイで食ったメンダーの素揚げより不味い……」
メンダーと言えばタガメの事で、昆虫より不味いんかいと突っ込みたくもなったけど。卍はそれほど嫌いでもなかったタガメのフルーティーな味わいを思い出し、テントから毛布を持って来て巴に被せてやり、熱いコーヒーを入れてあげた。
闇に包まれたケモノの遠吠えに巴がバカっぽくたじろぎ、「出た……」と、真顔で言うので、卍は呆れた顔して、「何が? 」と尋ねる。
「女だよ、白いシカの体をした獣人だよ……」
意味が分からず卍は巴がガン見する闇の方を見たが、真っ暗で何も見えるはずもない。シカでも居たのかと巴の眼を怪しむように覗き込むと、巴の両目が見事なほどに真紅に紅く染まっていた。
「マジで顔だけ人間の女の顔してるし、どおゆうわけか俺に付き纏ってる。昼間も見たけど直ぐに消えた。今も消えたけど、あの女の顔は忘れねー……」
高揚した巴の瞳が、今まで見た事もなく鮮やかな真紅に染まり、アメコミの超人キャラのように怪しく光る。瞬間、卍は机に1つ無残に転がる
「巴、片眼の開く音が聞こえるの……? 」
片眼を手で押えた巴は、卍にゆっくりと微笑みかけると、片眼の眉毛を上下に高速で動かす。
巴が完全に第三空間へシフトしているのを確信した卍は、冷たくなって朽ちた机の上に転がる
音を立てて
朽ちた机の上を揺らいで照らすランタンの炎に微睡む卍は、いきなり時間の感覚がプツリと消える。体の力を抜き夜のしじまに身を委ねれば、徐々に高次元で濃密な闇に吸い込まれていく。座ったまま確かな幻へ覚醒していくのを感じる卍は、消えた時間次元が闇にうねってゆがみ、空間が無限に広がりリバースしながら迫ってくる様を、鮮やかに真紅に染まった眼で見据えた。
デジャブのように闇の中にケモノの遠吠えが響きわたり、獣人の彼女が迎えに来たんじゃないと半笑いで卍が巴を見ると、巴は空を仰ぎ手を伸ばして夜空を指差している。
紅く光る巴の瞳の奥に、何かの眩しい光が映り込むのを見た卍が、巴の指差す夜空を見上げると、頭上を埋め尽くす星々の間を高速で突き抜けていく流星が何個か見えた。
流星は次々と幾つも飛来し始め瞬く間に空を埋め尽くし、二人の頭上に白昼のスコールのように降り注ぐ。その中にひときわ大きく紅い光線を引く流星が現れ、二人は同時にその紅く放たれた光線の重力に引き込まれていくような感覚に囚われる。
二人は本気で焦って強く地面に必死で足を踏ん張るも、頭上を渦巻き回転する紅い流星からは逃れきれず。
ダメだ、このまま激突して世界が終わるんだと二人が本気で思った瞬間、完全にコントロールを失った。
薄らだが確かに、断片的に何度も輝く光の中へ吸い込まれていくように、上下左右の3次元の空間が光に飲み込まれて消滅する。卍と巴は何処かは全く解らないが、紅い閃光に包まれた5次元空間にポッカリと浮いているような感じがした。
なぜか物理的に有り得ないパラドックスな空間に渦を巻く閃光に、二人は違う次元に自分と同じ人間がもう一人存在しているかのような幻が見えると、その光の一つ一つにハッキリと、確かな映像が鮮明に見える。
それは静止画のようで有り動画のようで有って、長かったり短かったりと、伸び縮みしながら波のように寄せては引いた。自分たちの姿もまったく違った物体に見えたりもしたが、それに意味など考えも及ばず。閃光の中にハッキリと見える色鮮やかに移り変わっていくビジョンが、チャクラが開いた卍と巴の無意識の中へと止めど無く刻み込まれる。
それはおぼろに消えゆく残像と、二人の頭上に渦巻いた流星の消えゆく輝きを、卍と巴にいつまでも追いかけさせ、二人は心を震わせる。
どれほど時間が経ったのか? すごく長くも感じたが、ほんの一瞬だったのかも知れない。
流星の出現が止み、二人が自分のコントロールを取り戻して、今の巨大な竜巻並みに制御不可能なリンボはいったい何だったんだと顔を見合わす。そのあまりにもブッ飛ばされたお互いの間抜け面を見て同時に噴出す。
そしてクスクスと笑いが止まらなくなると、次第に腹を抱えてケラケラと笑い合ってるうちに本気でどうしょうもなく可笑しくなり。終いに笑い死にするほどに毛は逆立って毛穴は開き、涙を流して息も絶え絶えに悶絶しながら過呼吸なみに気を失ってしまうほどに、笑って、笑って、笑って、笑って、笑って、笑って、笑いまくった……。
第4話 L S D - Barneys
第4話 L S D - Barneys
「これほど昼と夜との寒暖の差が激しければ、
奇抜に色付く山の羊腸道を、朝日に照らされた2台のバイクが登って行く。10キロほど戻り、きのう
朝日に輝く河原は、また異次元の美しさで二人を招き入れる。何度かイタチやタヌキかイノシシが顔を出すと、その先には無数の蝶の群れが羽を休めていた。
バイクが近付くと蝶は一斉に羽撃き、河原一面が黒紫のおぼろで大きな影に飲み込まれる。朝日に輝き羽撃く無数の蝶は幻への誘い水のように、二日飛びの卍と巴の無意識に刻み込まれたビジョンをフラシュバックさせる。空へと舞い上がる無数の蝶の群れは、一筋の紫煙のように連なり、一斉に川上へと飛び去って行く。
霧が晴れたように視野が開けると、蝶が飛び去った河原の先に1本
二人は♂には用はなく、あくまでも熟した処女、受粉してない
きのう発見した
そしてもう一つ、二人がわざわざ汚染された立入禁止区域にまで入って
陽が頭上へ昇るといっきに気温が上昇し、9月も下旬だが日中の日差しは強烈で、容赦なく二人の体力を奪っていく。河原に大きな流木が大量に散乱してたりすると、いくらモトクロスバイクに乗っていても、卍と巴は迂回せざるをえなかった。怪しい場所はバイクを降りて歩きで確認したが、もう昼を過ぎても♂株一本しか見付けてない。
早朝からろくになにも口にしていない二人は少し休もうと、強烈な日差しを避けて草むらに立つ巨木の木陰に腰を下ろす。
水筒の水をガブ飲みすると草の上に二人は仰向けになった。木陰からのぞく青く透明に透き通った空をしばらく眺めて、思い出したようにザックから菓子パンやポテチを取り出して口に頬張る。
どうも朝からケムリ無しでは上手く勘がつかめない巴は、またアレルギー反応が出て、やむを得ずザックから△印のケミカルを取り出し水筒の水で飲み込むと、額の汗をタオルで拭って卍にぼやき始める。
「な~、
「まだ全然乾燥させてないんだから無理よ! 」
「ケムリがねーとシンクロできねーし、電子レンジでも有れば
「ここから半径約20キロ圏内は立入禁止区域よ、空家に電子レンジが有っても、電気が止まってるから無理ね! 」
「まえさ~、千葉の館ヤーマンでもらった生
「だからここは立入禁止区域よ! コインランドリーが有っても電気が無いの、解かる? 」
しつこい巴のぼやきに、「チッ! 」と、舌打ちをして卍は起き上がると、面倒臭そうに溜め息をついてザックの中を手で探り、小さなビニール袋を取り出す。
「あった、これならあるわよ! 」
ビニール袋の中には、
「島のシャーマンに貰った例のやつ、食べる……? 」
卍が手にした
「どうなる……? 」
「分からん……? 」
「大丈夫かな~? 」
「あんたねー、金玉付いてんだろ! 」
灰色掛かって乾燥した薄茶ろの細いシメジのような
卍はすぐに口の中に放り込むと水筒の水で胃に流し込んだ。巴は怖々と
乾いた風が通り抜ける木陰の木漏れ日に、
やがて二人は暖かくて心地いい幸福感に包まれた。体の疲れもすっかり取れて行き、大らかで寛容な優しさに満ちて、目にするもの全てが愛おしく輝き始める。二人の両目は黒々と大きく黒目が笑み、世界中の幸せを手にしたような喜びに満ち溢れる。
巴は笑みを浮かべて立ち上がると、光溢れる世界に背伸びする。自分の体が気持ち良くどこまでも光の中へ伸びていくような、不思議な感覚にとらわれて口走る。
「見える、スゲーよく見える! ワイパーかけたみたく綺麗に見える。体も伸びたり縮んだりして、第三空間へシフトしてる……」
「平和な世界に入ったわね、とても気分が良くって、何だか身体を動かせないわ……? 」
「俺は全然動けるよ……」
巴はストレッチをするように調子よく体を動かして見せた。体を伸ばすと自分の手や爪も果てし無く光の先へ伸びて行くような不思議な感じに、どっぷりハマって笑みを漏らす。しかし、調子に乗って体を動かし、首をグルリと何度か回転させると、突然キィーンとハウリングを起こしたような耳鳴りがして、焦った巴は耳鳴りを治そうと激しく首を振った。
狂ったペコちゃん人形のように激しく首を振り続ける巴を。「ちょっと、首回しすぎだから! 」と、卍が這いつくばって注意するも、一向に耳鳴りは止まず。卍が何を言っているのかも聞こえなくなった巴は、徐々に辺りが日が暮れた様に暗くなる。そして一人暗黒の井戸の底にでも居るかのように、周りの全ての音が
嫌な予感に、額から粘り気のある脂汗が地面に滴り落ちる。
卍も巴と共鳴するように、高ぶる幸福感は消えていった。這いつくばった体勢でふと目にした
「何、幻覚……? 」
寒気を感じた卍は、何かがヤブの中で蠢くのに気付いて目を凝らす。音を立てて激しく揺れるヤブの奥には、確かに何かが居る。
「これは……、幻覚じゃないわ……」
井戸の底から抜け出そうと草むらの上で
第5話 Durban Poison
第5話 Durban Poison
見慣れた街の風景に、なぜか自分が年の瀬の新宿の繁華街を歩いていると理解する。ネオンの原色でガラスのようなビルの壁面に映し出される自分の両目が、異常な程に黒々と大きく見えて、巴は無意識にビルに映った自分の片目を手の平で押えた。
混沌の炎に包まれ身悶えする屍の片目が大きく開かれる……
来年のことを言えば鬼が笑うというが、その笑う鬼というのはコーカソイドのアーリア人とか白人のことで。白色人種が世界を支配しているのだから、来年も再来年もそのまたもっと先の先まで、世界で起きるあらゆる全ての出来事は、白人によって決定がなされているのだから。鬼の言うところの無知で奴隷の黄色い
「まったくふざけた世の中だぜ……」
小雨が降り始め、片目を押えた巴の後ろを行き交う人の波にちらほらと傘が混じり始める。その中に巴をジッと伺うように見詰める女とビルの壁面越しに目が合った。
女の顔はとても小さく色白で首が長い。小雨に濡れた体が一瞬、白い毛に覆われた四つ足に見えてギョッとした巴は、片目を押えた手を素早く下ろして振り返る。
雨に濡れたネオン管がジジジッとノイズを放ち、原色を点滅させて浮かび上がらせる人混みの中に、女の姿は消えていた。
雨脚が激しくなり、人を掻き分けて新宿駅の中へ入って行った巴は、改札を抜けて足早に階段を駆け上がり、人で埋め尽くされたプラットホームの中央で人の列に並んだ。
けたたましくアナウンスが流れ、耳障りな金属音を響かせた電車が、滝のように降りしきる雨の中を向かいのホームに入って来る。
水しぶきを上げて電車が前に差し掛かる時、巴はハッとして向かいのホームに目をやった。
向かいのホームには四つ足で白い毛に覆われた女の顔をした獣人が、巴をジッと見据えている。
女の顔をしたケモノは、震えるサブミニナルな残像を残して、雨の中を突き抜けてきた電車に吸い込まれるように消える。そしてドスンと鈍い音が辺りに響くと、巴はビクンと体を強ばらせた。
電車が急ブレーキをかけて、巴が慌てて階段を下りようとすると、突然誰かに強く腕を引っ張られて、巴は瞑っていた目を開ける。
「起きろ巴! 起きて! 」
卍は巴に何度も言うが、瞑っていた目は開いたもの、巴には卍の声が木霊のように頭の中に響いている。卍の顔を見ても目をパチクリさせるだけで、何を言っているのかさっぱり理解できずにいた。
訳がわからないまま卍に立ち上がらされ、何故か強引にヘルメットを被せられて低い体勢を取らされる。卍はサバイバルナイフを抜いて、草むらの先に鋭い刃先を突き立てた。
木陰の木漏れ日が卍のナイフにギラリと照りつけると、光の反射でナイフがぐにゃりと曲がって見える。
静寂に包まれる深い緑の中で、目の前の草むらのヤブが激しく揺れる。ただならぬ卍の殺気が伝わる巴も、訳が解らないままナイフを抜いて、ふらつきながら卍を真似てナイフを構えた。
「多分クマよ、こっちへ来るわ! 」
卍は覚悟を決め、巴も危険が迫ってきている事を悟る。
巨木の下は少し開けた草むらなので、クマがこのまま進んでくれば丁度目の前のヤブから姿を現す。激しくヤブが音を立てて揺れ、二人はナイフを構えて息を潜めた。
ところがヤブから姿を現したのは、手ぬぐいでほっかぶりをしたカマを手に持つ、小さなお爺さんだった。
竹で編まれたカゴを腰にぶら下げヤブから現れたお爺さんは、足元に何かを探すような素振りのまま、息を潜めてナイフを構える目の前の二人にはまったく気付いていない。ずっと下を向いたまま足元の草むらばかりを見ている。
ヤブから突然現れた小さなお爺さんが、巴には完全に大きな黒目をした銀色に光り輝く小さなリトルグレイにしか見えず。リトルグレイの嘔吐ウェーヴに勝手に反応したと勘違いすると、突然猛烈な吐き気に襲われ、アブダクションの恐怖からその場で堪えきれず、搾り出すようなノイズを放ちゲロを吐いた。
ゲロを吐く巴に気付いたお爺さんは、声は出さずに飛び上がって驚く。その拍子に腰にぶら下げたカゴからキノコが何個か溢れ落ち、草むらにコロコロと転がる。
石の地蔵のように固まってしまったお爺さんと顔を見合わせた卍は、ナイフを終って会釈する。小さなお爺さんは表情を変えぬまま何事もなかったように、もときたヤブの中へゆっくりと帰って行った。
「そう、キノコ狩りの季節……」
草むらに幾つか転がった原色のキノコを卍は拾い、臭いを嗅いだ。
「キノコ狩りって、ここは立入禁止区域なんじゃねーのかよ! 」
ふらつきながらナイフを終い、巴は水筒の水で口をゆすぐ。
「そうね、でも私たちだって入ってるじゃない」
「そうだけどさ、今のマジで人間か……? 」
ザックを背負って移動しようと二人はバイクに跨り、河原を下り林道を抜けて国道へ出る。道路脇の木陰に2台のバイクを止めて卍が地図を広げた。静かで豊かな森林の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込めば、
地図を覗き込んで新しいルートを練り直していると、車の通りが消えた国道に容赦なく照り付ける強い日差しが
暫くすると、空中に浮び揺らぎながら立ち昇る陽炎の中から遠くの先に、1台の軽トラが現れる。そして徐々に二人の方へ向かって走って来る。
近づいてくる軽トラからは何だか Wham! の Bad Boys が大音量で流れていて、二人の前を横切ると車を道路脇の路肩へ駐車した。
Bad Boys が止むと、首にタオルをかけた30代ぐらいで濃い顔をした男が運転席から降りて来る。男は卍と巴に近づき、「こんにちわ」と、挨拶した。
卍と巴も「こんにちわ」と、挨拶を返すと、男は止めてある2台のモトクロスバイクを食い入るように見詰める。
「良いマシンだね、ツーリング? 」
「はい」
「東京から? 」
「はい、そうです」
立入禁止区域に居る事には何も触れず、男は卍の広げた地図を脇から覗き込む。彫りの深い顔に長い
「何処まで行くんですか? 」
男が覗き込む地図を、卍は適当に指を差す。
「この川の下流の方へ行ってみようと思ってます」
「う~ん……」
腕を組んで唸りだしたかと思うと、男は首を傾げて唐突に言う。
「そっちの方にはあまり生えてねーよな……」
男の言った言葉に一瞬卍と巴は耳を疑い目を合わせるが、何かの聞き間違いだろうと、卍は男に聞き返す。
「何がですか? 」
「だから、この川の下流の方にはあまり生えてねーよ! 」
緊張が走り互いにまた二人は目を合わせた。巴は黙ったまま横目で男を鋭く注視する。
男の出方を伺うため、卍は何げに惚けてまた聞き返す。
「何が生えてないんですか……? 」
笑みを浮かべて乗ってきた軽トラへ男は戻り、徐ろに荷台から巨大な
条件反射で思わず身を乗り出し、卍と巴は男が差し出した濃い緑の
密度が凄く形も大きなトウモロコシのようで、そこから手裏剣のような
突然予期せず男が差し出した、想像を超える巨大な
「君たちはコレを探しているんじゃないのか……? 」
どうゆう事か? なぜこの男は白昼夢のように立ち昇る陽炎の中から突然
「そーなんですよ、凄いですねコレ、どこに生えてたんですか? 」
「そーだろー、やっぱコレ探してたんだ。だから河原に降りてったんだな。ダメだよ年寄り脅かしちゃ、物騒なもんぶら下げて……」
近づいて来た卍の足に装着されたサバイバルナイフを男はチラ見すると、巴のこともチラ見した。
巴は黙って
「ハハハッ……、ゴメンなさい、悪気はなかったの、てっきり大きなクマが現れたかと思って、私たちも本気であせったわ」
「そんなぶら下げてるナイフでクマに勝てるわけねーだろ! 」
「私たちも勝とうと思ってないですけど、ないよりゃましかと」
「まぁいいけど、クマなんかよりもコッチの方がいいんじゃないの……? 」
手に持つ
「そーね、クマなんかよりもそれのほうが全然良いわ、おにいさんソレどこに生えてるのか教えてくれる……? 」
「欲しい……? 」
「えぇー、欲しいわ……」
「う~ん……」
腕を組んでまた男は唸りだす。沈黙した立入禁止区域の原生林に、陽炎に揺らぐ国道に貫かれた深い森に、神々しいケモノの鳴き声が大きく響きわたった。
今だ
「奴が近くに居るな……! まぁいいや。じゃー場所教えてあげるよ、山の方に生えてるからねコレは、山へ入って行くけど。そんな遠くないから、バイクで付いて来な! 」
卍が頷くと、男は軽トラに乗り込む。
「なんだよ奴が近くに居るって? やっぱグレイだろ、大丈夫かよ……? 」
二人はバイクに跨ると、ヘルメットを被りながら巴が卍に言う。
「大丈夫よ、ゾンビじゃ無いことは確かだし。それに自分で
「俺も何か見たことある気がするけど。だけどさー、なんでうちらに教える……? 」
「そんなの知らない! 」
「放射能も撒かれてんだぜ、やっぱコレってリトルグレイのアブダクションだろ、絶ッテーに……? 」
「あんたまだリンボに落ちてんの? 」
軽トラのエンジンが掛かり、Bad boys が流れる車の窓から男は顔を出して二人に言った。
「ちょっと一軒寄ってくから、付いて来て。で、俺の名前はユタ、ヨロシクな! 」
男は窓から顔を引っ込めると、軽トラを発進させた。
「ホラおいでなすった、一軒寄って行くってよ! 飲みに行くんじゃねんだから。それにあの選曲はマジでヤバイぜ! 」
「ヤバかったら逃げればいいじゃない、二ビルだろうがグレイだろうがレプテリアンだろうが。とにかくあの
「マジか、グレイよりも厄介じゃんか! 」
笑いながら卍は巴にウインクしてバイクのエンジンを掛けた。巴も困惑しながらエンジンを掛けると、白昼夢の幻に浮ぶ陽炎の中から現れた、ユタの後を二人は追った。
第6話 Gorilla Glue #4 ( G G 4 )
第6話 Gorilla Glue #4 ( G G 4 )
暫く走って行くと軽トラは突然木々がうっそうと生い茂る、山側の細くて薄暗い林道へ入って行った。バイクも後へ続き、かなり勾配のきつい細い坂道を山の頂上に向かって登って行く。
卍と巴のモトクロスバイクはこれぐらいの坂道などはたわいもないが、坂を登る軽トラのエンジンは悲鳴を上げている。
木々の間から差し込む木漏れ日が、坂道にくっきりと縞模様を映し出し、何か
少し開けた場所まで来ると、軽トラはギギギッとサイドブレーキを引いて停車した。
ユタが車から降りたので、卍と巴もバイクを止めてエンジンを切った。ヘルメットを外すと静かで濃い森の良い香りに包まれ、二人は深く深呼吸をする。卍がガイガーカウンターで汚染を調べるても、放射線は全く検知されなかった。そして何処からともなく小さな子供たちが現れ、バイクに跨る卍と巴を囲んでいた。
みな小学校に入るぐらいの年頃で、男女7・8人はいるだろうか? どの子も東京の子と比べるとマジで小汚く、服も破けてボロボロで、全員裸足……。
立入禁止区域の人里離れた山奥に、何でこんなにたくさんの子供たちが居るのか不思議に思うと。一瞬気のせいかと思ったが、子供たちの何人かは瞳の色が青く、髪の毛も茶髪で、一人の女の子は青い瞳にアフロヘヤーで、茶褐色の肌を輝かせている。
「こっち、こっち~ 」
ユタが二人を呼んだので、卍と巴は荷物を背負ったまま呼ばれた方へ歩いて行くと、森の中に大きな家が隣り合わせに二軒建っている。向かって右側は二階建て、左側は大きな平屋だ。
良い香りを漂わせる薬草のような草木がたくさん植えられた中を通って、二人は平屋の家へ呼ばれると、入ってすぐの大きな広間に座って待つように言われる。
ザックを下ろしてナイフを終いプロテクターを外す。ユタは奥に
奥に仕切られた襖が開き、中からユタが顔を出して手招きをするので、二人がお茶を置いて立ち上がろうとすると、「一人ずつ、一人ずつ」と、ユタは人差し指を1本立て、「君から、君から」と、巴を指差す。
困惑気味に巴は立ち上がり、「マジで、何で俺なの? 」と、ユタの指名に不安を感じて卍を見たが、卍は黙って笑みを浮かべていた。
仕方がないので呼ばれた奥の部屋へ巴が入って行くと、何もない十畳ほどの部屋の中央に、80歳ぐらいの婆さんが一人背を向けて座って居た。
巴はその場に座らされ、ユタは部屋を出て行き襖がピシャリと閉められた。
「東京から来たんか? 」
「はい」
「そーか、そーか」
婆さんは体をゆっくりと巴の方へ向けると、顔をのぞき込むように巴に近づいて来る。巴の顔を黙ってジッと見詰める婆さんは、とても穏やかで優しい顔をしていた。
「どれどれ……」
婆さんはしわくちゃの両手で巴の顔を覆うと、巴の目や頬を手の平でさすり始める。
何だこりゃ? と、巴は仕方なくと婆さんのなすがままに座っていた。
すると急に婆さんの鼻息が荒くなり、目が血走ってきたかと思うと、とても穏やかで優しい顔をしていた婆さんの顔が鬼の形相へと変わり、いきなり巴を怒鳴りつけた。
「お前……、何を食った! 」
婆さんの怒鳴り声は広間に座る卍にもハッキリと聞こえた。
巴は訳が分からず、「何……、何スカ……? 」と、目をパチクリさせる。婆さんは鬼の形相で立ち上がり、「お前ぇー、お前ぇー 」と、巴に覆い被さるように迫り、巴の耳元の臭いをクンクンと嗅ぐ。
婆さんの異常な奇行と迫力に圧倒された巴は、座ったまま泣きそうな顔で仰け反った。
すると婆さんは突然、「ワッカー……! 」と、大声で叫ぶ。
広間にいた着物姿の女の子が、「はい! 」と返事をして立ち上がり、巴のいる部屋に入って来た。
ワッカは婆さんの手をとって座らせると、何やら耳打ちされている。
婆さんの圧力から解放されて巴がホッとしていると、背を向けて座る婆さんが言った。
「若造、この傷はワシが二十の時に役所を爆破して、公安に受けた拷問の跡じゃ」
背中を向けて座る婆さんの白くて長い髪の毛をワッカが束ねると、上半身の着物を脱がして背中にある大きな傷跡を見せた。
婆さんの背中には幾筋ものケロイド状の傷が有り、肩から腰まで続く盛り上がったケロイドの筋は、太いところで5・6センチ位は有る。
これほど酷い傷跡が身体に残るという事は、命を落とす危険な状態にあった事を容易に巴に悟らせた。
だが……、この酷い傷跡が婆さんの言ったとおり、本当に公安によるものなのか巴に解かる術もなく。なぜ役所を爆破したのかも解らなければ、なぜ初対面の自分に地獄で背負って来たかのような背中の傷跡を見せたのかも、到底理解出来ずにいた。
質問もできずに呆然と巴は部屋を出ると、入れ替わり卍が婆さんの部屋へ通された。
外からは子供たちのはしゃぎ声が聞こへ、巴は広間でザックを枕に仰向けになって寝転んだ。ユタは座ったまま目を瞑り、まるで寝ているようだ。
卍が入った部屋からは、至って普通の会話が聞こへ、笑い声さえ漏れてくる。
溜め息をつき仰向けで寝転がって巴は目を閉じると、なぜか脳裏に獣人の女の顔が鮮明に浮かんだ。雨に濡れた女の口元に、何か意味が見付かるかと思っていると。疲れからか突然猛烈な睡魔に襲われた巴は、その場で沈んで行くように眠りに落ちる。
その子は普通に可愛い子で、服も普通の学生のようで、しいてあげれば黒いマニキュワと胸元の小さな六芒星のネックレスが印象的だった。
眼下に青白く広がる高層ビル群を望む大きな窓ガラス越しに、巴の横に寄り添うように立つ子は、ガラスに自分の姿を映したまま、「ツヅラ……」と、名乗った。そして巴の目を真っ直ぐ見詰めて彼女は言う。
「あなたは草船に乗って生贄を狩る、
そんなことはないと、巴は首を振る。
「嘘、あなたは私を生け贄にするわ! そして内臓を取り出して、かのじょが食べるの……」
訳が分からず巴は困惑して言葉に詰まると、ガラス越しに巴を見詰めるツヅラの大きな黒眼が震えていた。
「意気地なし! 」
吐き捨てるようにツヅラは言って、懐ろから鈍く光る飛び出しナイフを取り出すと、素早くガラスに映る巴の顔を切りつけた。
「痛ッ! 」と、巴は声を上げ、手の平で鼻を抑えて大きく目を開く。
そこには卍が巴を見下ろしていて、寝言を言って爆睡していた巴の鼻の穴にバイクのキーをねじ込んでいた。そして寝ぼけて周りを見まわす巴に諭すように言う。
「ねー、今日はここへ泊まってっていいって。で、何か食事もご馳走になることになったから、ちゃんとお礼を言わないと。良い婆さんじゃない、お風呂に入ってご飯いっぱい食べなさいだって、あれは絶対サ二ワね! オーラが違う……」
「背中にしょったオーラも見たかよ! 」
「えぇ、見たわ…… 」
「そっか……」
素っ気なく答えた巴だが、内心ここへ泊まれると聞いてホッとしていた。
改めてユタと婆さん、そして雅な着物を纏ったワッカという娘に二人は名を告げて礼を言う。
婆さんの名前はマナといい、「二人は疲れているようだから、体に溜まった毒が抜けるまで、ここでゆっくり休んでいけ」と言ってくれた。
ユタは小声で「例の場所は明日連れてく」と、二人を隣の二階建ての家の方へ案内した。
荷物を抱えて外へ出ると、日が暮れ始めて夕陽に照らされた山々が、美しく紅色に染まっている。
二階建ての家は入口が土間になっていて、居間に囲炉裏のある古民家だった。
「布団は2階に置いてあるから、適当に居間に引いて寝てくれ、風呂は向こうの家の台所の横から入れる。今ワッカが沸かしてるから、湧いたら知らせに来るよ。酒は後で何か持ってくるとして、先に布団引いちゃいな、夜はもう寒いよ」
ユタに礼を言って二人は2階へ布団を取りに行った。電気の通っていない薄暗い部屋で、ユタは囲炉裏に火種を落とす。二人が布団を引き終えると、ワッカが明りの灯ったランプを持って風呂が湧いたと知らせに来た。卍は「お先に! 」と、着替えとタオルを持って平屋へ行き、巴はユタの火起しをを手伝い、土間にあるストーブに薪をくめる。
家の外が闇に包まれると、ランプの明かりが揺らぐ部屋の小さな裸電球に、薄らとぼんやり明かりが灯った。
「立入禁止区域なのに電気が通ってるんですね、電子レンジ有りますか? 」
巴がユタに尋ねると。
「小さなジェネレーターを動かしてる、電子レンジなんて物は無いよ」
「風呂とかって……? 」
「風呂は湧水を薪で焚いてる」
「湧水? トイレは……? 」
「トイレはボットンだよ」
しばらくして卍が顔をほ照らし風呂から戻ると、入れ替わりに今度は巴が着替えとタオルを持って風呂場へ向かった。
幾つものランプに照らされた隣の家の広間は子供たちに占領され、ちょっとした児童館の有様。半端ないバカ騒ぎの中、マジで効いちゃてんじゃねーかと思える。青い瞳と褐色の肌のハイブリッドが混ざる子供たちのテンションの高さに、巴は目を回す。
山のガキは違うなと妙に納得した巴は、奇声を発する子供達を尻目に風呂場の引き戸を開けると、薄らと明かりが灯り白い湯けむりが立ち籠める、湧水が薪で焚かれた風呂へと入って行った。
体を洗って湯船に浸かり、湯気に曇った窓を開けるれば、山の冷たい新鮮な空気がゆっくりと入って来る。
濃縮された酸素が湯船に浸かる身体の毛細血管にまで行き渡って行く気がして、巴は心底癒された。
暗闇に包まれた山は虫達の鳴き声に覆われ、まるでガムランを奏でているようで、あまりの心地良さに巴をトランス状態へと誘ってゆく。
湯船に浸かり、夜空一面を埋め尽くして輝く星に微睡む巴は、無意識に紅い流星を探していた。
土間にあるストーブの薪が煌々と赤く燃えていて部屋は暖かかった。居間では炭火が赤くゆらぐ囲炉裏をユタと卍とワッカが囲んでいた。
「どう、風呂上がりに……」
真っ赤な炭を火箸で転がして、一升瓶をユタが掲げる。
「頂きます! 」
ワッカに湯呑を渡された巴は囲炉裏の前に座り、ユタに酒を並々と注がれた。
「乾杯! 」
酒をグビッと飲み込むと、リトルグレイでゲロった風呂上がりの空きっ腹に、酒が無茶苦茶染み入った。
炭火の上に網を置いて蒸し焼きにしていたアルミホイルを、ユタが破いて広げると、中から白い湯気が立ち昇り、ニンニクの効いたバターの香りが食欲を掻き立てる。そこへ醤油を少々たらし、「食いな、精がつくぞ! 」と、箸を渡された。
空きっ腹の二人が肉を口へはこぶと、しっかりと旨味のあるジューシーな肉汁が口の中に溢れ出て、二人は思わず笑みを浮かべる。
バター焼きのニラに似た野菜は、ニンニクのような香りとコクがあって絶品だ。他にも脂の乗った魚の燻製を炭火で炙ったものや、初めて食べる何かの塩辛とかも最高で、二人は酒がどんどん進む。
初めて口にする食材をそのつど尋ねるが、肉はシカとイノシシだと聞いて納得するも、他の食べ物は初めて耳にするものばかりだった。
二人は妙に気分が高揚し、唸るように「美味い」と言うと、体が熱を持ち始めたのを感じていた。
土間の戸がガラリと開き、平屋へ行ったワッカが大量のおにぎりと、大きな薬缶に入ったお茶を持って居間へ上がって来る。
巴は手を叩いて喜び、盆に乗せられたおにぎりを遠慮なく手でとって口へ頬張った。
ユタは笑みを浮かべて、「薬缶のお茶をたくさん飲めよ! 」と、二人に言った。
薬缶の中身は
そしてユタは突然立ち上がると、「明日また来っから、お休み! 」と、ワッカを連れてあっさりと家を出て行く。
おにぎりを頬張ったまま卍と巴は呆気に取られたが、家を出て行くユタの背中に米の詰まった口でモゴモゴと、「おやすみなさい」と、慌てて言った。