第10話 Girl Scout Cookies ( G S C )
第10話 Girl Scout Cookies( G S C )
ケムリが充満する車内のサンバイザーに、神の宿る木片を差し込み、 Electric Dub が大音量で流れる幌付きの2tトラックが、草をなぎ倒して野原に止まった。
ドアが開くと、大量の白いケムリがモクモクと空へ舞い上がり、ケムリの中から卍と巴が極太J T を口に銜えて降りてくる。
荷台の幌を巴が巻き上げると、中には2日がかりで収穫したG J のB D が満杯に詰まった黒いゴミ袋が大量に積み上げられ、荷台の9割以上は埋まっていた。
2tトラックの荷台いっぱいにG J を刈り取っても、これっぽっちも減りはしない山間に群生する G J 。小型のノコギリを片手に高台から見下ろし、J T のケムリを晴れ渡る澄んだ青い空へと立ち昇らせ、二人は最期のハーベストを手早くこなす。
トラックの荷台に詰め込んだ黒いゴミ袋は、口をキツく結んでから更に結び目にガムテープを巻き付けて補強し、臭いが外へ漏れないように厳重に縛り上げる。
幌付き2tトラックの荷台に、もうこれ以上は入らない程B D を満杯に詰め込んだ二人は、幌のファスナーをきちんと閉めて山を下った。
検問を上手くすり抜けて港に停泊する貨物客船の中へトラックを積み込み、船の甲板へ上がり船尾のベンチに二人は腰掛けた。そして前回の二の舞を踏まないように、卍と巴はJ T に火をつけ打ち合わせをする。
10日前、山から東京へ戻るさい、二人は色々と世話になった礼に、立入禁止区域の外の街のスーパーで米を10キロ買って、去り際にマナに渡した。マナは米の礼に畑に生えてるトウモロコシを持っていけと、ワッカに10本ほど取りに行かせる。
二人ともG J が満杯に詰まったザックにはまったく余裕がなく、事情を伝えてお気持ちだけでと断るが、ワッカはヒモを持って来ると、強引に二人のバイクにトウモロコシを括り付ける。
呆然と諦めた二人は捨てる事もできず、滑稽《こっけい》にもトウモロコシを何本も括り付けたバイクのまま船に乗る。そして満帆にG J の詰まったザックを背負って、幻の好景気とうたわれるバビロンへ上陸すると、すぐに何度もパトカーとすれ違う。そのつど不自然に目立つバイクに括り付けられたトウモロコシを二人は捨てようかと思ったが、それもなんだか忍びなく。結局そのまま中野の巴のアパートへ向かうため、巴が先を行ってバビロンを走り抜けた。
陸に上がる前に甲板でケムリをしこたま吸いまくっていた巴は、真っ紅に染まった眼をして卍の先を走る。しかしなんだかルートが滅茶苦茶で、フラフラと銀座を抜けると渋滞にはまる。G J を満載したザックを背負ったまま、わざわざ桜田門の交差点に差し掛かる。
たまりかねた卍は、渋滞で動けなくなった巴のバイクに横付けした。
「何でよりによってここを通るのよ! 」
「だってこの道が一番近いから! 」
「近いからって何でわざわざG J 背負って警視庁の前を通るの! 」
言い争いながら二人はトウモロコシ付きバイクをノロノロと走らせていると、案の定渋滞に巻き込まれ、ドンピシャで警視庁の前の交差点でバイクが止まる。
目の前ではトウモロコシを何本も括りつけた2台の不審なバイクを、白バイに跨るゾンビがジッと見据えていた。
すぐに発進したい気持ちが先走り、巴はギアをローに入れたままクラッチを切って信号が青に変わるのを待っていた。だが、極度の緊張から心拍数が上がり、クラッチを切っていた指が滑ってしまい、バイクは不自然にガクンと上下に激しく揺れてエンストする。
その衝撃で、バイクに括り付けられていたトウモロコシが全て交差点に吹っ飛んだ。
突然目の前で起きた衝撃映像に卍は凍り付き、巴はテンパってバイクのスタンドを立て、桜田門の交差点に四方八方飛び散ったトウモロコシを、車通りを避けて拾い集める。
白バイに跨るゾンビが巴の不審な動きに反応してホイッスルを吹くと、巴は頭を下げて拾ったトウモロコシを服のポケットにねじ込む。ポケットに入りきらないトウモロコシは襟元とザックの隙間にねじ込んだ。そして信号が変わると何事もなかったようにバイクに跨りエンジンを掛けて走り去った。
卍が後に付いていくと、巴は後ろを何度も振り返り、白バイが追いかけて来ない事を確認して、内堀通りを新宿通りへ左折した。そして信号で止まると、すぐに卍がバイクを横付けする。
「何やってんのアンタ! 正気? 」
ケラケラと笑いながら、巴は襟元に突っ込んだトウモロコシを卍のポケットへねじ込んで言う。
「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい……てね。桜田門にモロコシが舞って、ミカドの昼寝を邪魔したか……? 」
中野坂上の六畳二間のアパートへ着くと、部屋一面に新聞紙を引き詰めて、その上に持って来た生乾きのB D を全部ならして引き詰めた。
部屋に充満する猛烈なH H 臭に巴は噎せ返り、プチ切れ気味の卍はバイクに付いていたトウモロコシを全部巴の部屋の中へ放り投げる。
「トラック借りれるとこ探してくる。G J ちゃんと今日中に綺麗に干しといてよ! 」と言って、足早に部屋を出て行った。
「明日綺麗に干し直せばいいや、だけどどうやって寝りゃいんだ俺……? 」
部屋の有様に頭を抱えて巴はぼやいたが、J T に火をつけケムリをくゆらし、ターンテーブルに The Wailers の Burnin を乗せて針を落とし、ポケットにねじ込んだトウモロコシを取り出して、鍋に入れて蒸し焼きにする。
足の踏み場もない部屋の冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、甘い香りを漂わせて蒸しあがったトウモロコシに塩をふり、皿に乗せてビール片手にベランダへ出る。
外にあるイスに腰掛けると、夕闇に黒い影が幾つも天空へと聳 え立つ資本主義最後の砦 に、 Bob Marley の乾いた声が歪《ひず》みを与へ、 Rastaman の詩が取り囲む高層ビルをゆっくりと侵食してゆく。
「バビロン、お前は崩れ去るのだ……! 」
冷えたビールで乾いた喉を潤し旅の疲れを癒した。ふと見ると、隣の6号室のドレッドヘヤーの男がベランダ越しにコッチを覗いていたので、巴は軽く会釈する。
ドレッドヘヤーの男は巴と目が合うと、気不味そうに自分の部屋の中へ入って行った。巴は臭うのかなと思ってベランダの窓を閉めて、良い香りが迸 る蒸したてのトウモロコシにかじり付く。
すると今まで食べた事ない超濃厚なトウモロコシの旨みに感動し、噛み締めるたびに思わず大きく唸り声を上げた。
2
「なっ、だから拾って来て良かったって心底思ったね。お前はブチ切れて結局食わなかったからな、あのモロコシの旨さが分からねーだろーけど。可哀想に……。今回貰えなかったのが残念だ! 」
「あんたさー、本当に緊張感に欠けてるっていうか、少しは場所をわきまえなさいよね! どうゆう神経してたらあの場所であんな事ができるのよ? バカなの……? 」
船の船尾にあるベンチに座って舌打ちをすると、卍は呆れ顔で 巴から受け取ったJ T のケムリを吐き出した。
「だから、いい? 今回はちゃんと晴海からすぐの所に倉庫借りて有るから、ちゃんと輸送ルートも決めてるからそのとおりやって。この前の二の舞はゴメンだからね! このとんでもない量のG J をキープして置くには、でかい倉庫を借りて置くしかないんだから」
青く透き通った大海の空に浮かぶ雲を、夕陽がショッキングピンクに染めている。青から紫、そしてピンクからオレンジへ、アシッドにグラデーション掛かって大海を染める夕映えの空へ、海風に舞うG J のケムリがゆっくりと舞い上がって行く。
「だけどこんだけの量、どう捌ききるかが問題だな……」
巴の言葉に、卍はケムリを吐き出して真紅に染まった眼を細めると、笑みを浮かべて肩から下げたショルダーバッグにそっと手を忍ばせる。
「だから、コレが有るじゃない……」
ショルダーバッグに忍ばせた卍の手には、確りと冷たい R G D - 5 が握られていた。
「神の企てか宇宙の意志か……? なんにせよ、これから悪魔と大きな賭けをするわ! ケモノが支配するバビロンに囚われた魂を、開放するのよ」
「Exodus ……。お前はモーセか? 」
二人は一度背負えるだけのG J を背負ってバイクで東京に戻っていたが、卍のプランでトラックを用意して、再び山へ舞い戻る。山の連中は巻き込めないので家には寄らず、閉鎖されたキャンプ場にビバークしながら3日掛かりで G J のハーベストを行ない、2tトラック満杯に B D を積めるだけ詰め込んだ。
許しを得るためにユタに接触するも、また好きなだけ取れと言ってくれたユタに、卍は R G D - 5 を1パツ5万で譲って貰う。
「だけどお前も神経が図太いというか、図々しいというか、よくユタさんにパイナップルの話しができたなー! パイナップルが有る事を俺たちが知ってるって事はだよ、あのコンテナに有ったバッグの中身を俺たちが勝手に黙って見たって事じゃんかよ。ガチのゲイ雑誌やビデオが大量に有る事を俺たちが知ってるって事がバレバレな訳だからな。マジで生きた心地がしねかったぜ! 」
「ゲイ雑誌やビデオの事は一切触れずにスルーしたわ、ユタさんも触れてこなかったし、パイナップルの話のみ! 」
だから大丈夫みたいな言い方をして卍はケムリを吹かしたが、巴は余計に怖いわと眉を顰める。
船はアシッドな夕映えの空の下G J を満載させた2tトラックを載せ、大海をバビロンへ向かって順調に船行していた。
次の日、船が晴海埠頭へ接岸すると、卍と巴は船底に止めてあるトラックに乗り込むため、ドライバー達が下りて行く階段へ向かう。するとすぐに二人は異臭に気付き、紅い眼をした互の顔を見合わせた。
臭うのである、猛烈に……。
G J の鼻を突く強烈な臭いが、階段の上の船内通路にまで漂っていた。トラックが止めてある船底はだいぶ下にあるにもかかわらず、船内に猛烈な G J の香りが漂っている。
これは不味いと二人は慌てて階段を下りて行く。ドライバー達は口々に、「何かくせーな! 何だこの臭い! 」と、異臭にざわつき、臭いの元を特定しようとしていた。二人は急いでドライバー達を掻き分け薄暗い船底へ辿り着くと、臭はいよいよヤバくなっていた。
トラックが何十台も止められた広い船底に自分たちのトラックを探すと、噎せ返るほどに強烈なG J の臭気が充満した船底に2tトラックを見付ける。するとトラックは船の係員達数人にすでに囲まれていて、ライトで照らされ荷台の積み荷が覗かれていた。
「ヤバイ! 」と、卍はトラックへ駆け寄り、積み荷を覗く係員達に声をかける。
「ゴメンなさ~い、凄く臭っちゃてますね……」
船の係員達に申し訳なさそうに卍は頭を下げ、世間知らずのバカ女を演出するように上目つかいで言った。
「これお客さんのトラック? 困りますよ、こんな凄い臭のする積み荷を持ち込まれては、何なんですか積み荷の中身は? 」
「これは……、大学の研究で実験に使う高山植物が積まれています。私もこれほど強い臭いがするとは思いませんでした。ただ、ご心配には及びません。人体には全く有害ではありませんから、むしろ、良いぐらいで……」
巴はしれっとトラックの運転席へ上がり込み、卍は係員にデタラメに書いて出した書類の不備をダラダラと指摘されていた。船底の正面の鉄の扉がゆっくりと開き始めると、幾筋もの鮮やかな光線が薄暗い船底に差し込見始める。
サンバイザーに挟んだ神の宿る木片に、巴は紅く染まった眼をやる。闇黒から光へ導くと聞いたマナのテレパシーが、一瞬脳裏を霞めた。
「あーうるさいうっさい! 体に良いって言ってるでしょ! ありがたく思いなさいよ! 」
しつこい係員を卍はあしらい、トラックのドアを開けて助手席に上がって来た。船首の鉄の扉が完全に開かれると、東京湾のよどんだ空気が入り込んで、G J の強烈な臭気もいっきに拡散された。
エンジンを掛けると、トラックの車内に Electric Dub が大音量で流れ出す。
「Go for broke ……! 」
闇に差し込む光を浴びて卍と巴が同時に言うと、G J を満載した2tトラックを、帝都バビロンへ発進させた。
ドアが開くと、大量の白いケムリがモクモクと空へ舞い上がり、ケムリの中から卍と巴が極太
荷台の幌を巴が巻き上げると、中には2日がかりで収穫した
2tトラックの荷台いっぱいに
トラックの荷台に詰め込んだ黒いゴミ袋は、口をキツく結んでから更に結び目にガムテープを巻き付けて補強し、臭いが外へ漏れないように厳重に縛り上げる。
幌付き2tトラックの荷台に、もうこれ以上は入らない程
検問を上手くすり抜けて港に停泊する貨物客船の中へトラックを積み込み、船の甲板へ上がり船尾のベンチに二人は腰掛けた。そして前回の二の舞を踏まないように、卍と巴は
10日前、山から東京へ戻るさい、二人は色々と世話になった礼に、立入禁止区域の外の街のスーパーで米を10キロ買って、去り際にマナに渡した。マナは米の礼に畑に生えてるトウモロコシを持っていけと、ワッカに10本ほど取りに行かせる。
二人とも
呆然と諦めた二人は捨てる事もできず、滑稽《こっけい》にもトウモロコシを何本も括り付けたバイクのまま船に乗る。そして満帆に
陸に上がる前に甲板でケムリをしこたま吸いまくっていた巴は、真っ紅に染まった眼をして卍の先を走る。しかしなんだかルートが滅茶苦茶で、フラフラと銀座を抜けると渋滞にはまる。
たまりかねた卍は、渋滞で動けなくなった巴のバイクに横付けした。
「何でよりによってここを通るのよ! 」
「だってこの道が一番近いから! 」
「近いからって何でわざわざ
言い争いながら二人はトウモロコシ付きバイクをノロノロと走らせていると、案の定渋滞に巻き込まれ、ドンピシャで警視庁の前の交差点でバイクが止まる。
目の前ではトウモロコシを何本も括りつけた2台の不審なバイクを、白バイに跨るゾンビがジッと見据えていた。
すぐに発進したい気持ちが先走り、巴はギアをローに入れたままクラッチを切って信号が青に変わるのを待っていた。だが、極度の緊張から心拍数が上がり、クラッチを切っていた指が滑ってしまい、バイクは不自然にガクンと上下に激しく揺れてエンストする。
その衝撃で、バイクに括り付けられていたトウモロコシが全て交差点に吹っ飛んだ。
突然目の前で起きた衝撃映像に卍は凍り付き、巴はテンパってバイクのスタンドを立て、桜田門の交差点に四方八方飛び散ったトウモロコシを、車通りを避けて拾い集める。
白バイに跨るゾンビが巴の不審な動きに反応してホイッスルを吹くと、巴は頭を下げて拾ったトウモロコシを服のポケットにねじ込む。ポケットに入りきらないトウモロコシは襟元とザックの隙間にねじ込んだ。そして信号が変わると何事もなかったようにバイクに跨りエンジンを掛けて走り去った。
卍が後に付いていくと、巴は後ろを何度も振り返り、白バイが追いかけて来ない事を確認して、内堀通りを新宿通りへ左折した。そして信号で止まると、すぐに卍がバイクを横付けする。
「何やってんのアンタ! 正気? 」
ケラケラと笑いながら、巴は襟元に突っ込んだトウモロコシを卍のポケットへねじ込んで言う。
「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい……てね。桜田門にモロコシが舞って、ミカドの昼寝を邪魔したか……? 」
中野坂上の六畳二間のアパートへ着くと、部屋一面に新聞紙を引き詰めて、その上に持って来た生乾きの
部屋に充満する猛烈な
「トラック借りれるとこ探してくる。
「明日綺麗に干し直せばいいや、だけどどうやって寝りゃいんだ俺……? 」
部屋の有様に頭を抱えて巴はぼやいたが、
足の踏み場もない部屋の冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、甘い香りを漂わせて蒸しあがったトウモロコシに塩をふり、皿に乗せてビール片手にベランダへ出る。
外にあるイスに腰掛けると、夕闇に黒い影が幾つも天空へと
「バビロン、お前は崩れ去るのだ……! 」
冷えたビールで乾いた喉を潤し旅の疲れを癒した。ふと見ると、隣の6号室のドレッドヘヤーの男がベランダ越しにコッチを覗いていたので、巴は軽く会釈する。
ドレッドヘヤーの男は巴と目が合うと、気不味そうに自分の部屋の中へ入って行った。巴は臭うのかなと思ってベランダの窓を閉めて、良い香りが
すると今まで食べた事ない超濃厚なトウモロコシの旨みに感動し、噛み締めるたびに思わず大きく唸り声を上げた。
2
「なっ、だから拾って来て良かったって心底思ったね。お前はブチ切れて結局食わなかったからな、あのモロコシの旨さが分からねーだろーけど。可哀想に……。今回貰えなかったのが残念だ! 」
「あんたさー、本当に緊張感に欠けてるっていうか、少しは場所をわきまえなさいよね! どうゆう神経してたらあの場所であんな事ができるのよ? バカなの……? 」
船の船尾にあるベンチに座って舌打ちをすると、卍は呆れ顔で 巴から受け取った
「だから、いい? 今回はちゃんと晴海からすぐの所に倉庫借りて有るから、ちゃんと輸送ルートも決めてるからそのとおりやって。この前の二の舞はゴメンだからね! このとんでもない量の
青く透き通った大海の空に浮かぶ雲を、夕陽がショッキングピンクに染めている。青から紫、そしてピンクからオレンジへ、アシッドにグラデーション掛かって大海を染める夕映えの空へ、海風に舞う
「だけどこんだけの量、どう捌ききるかが問題だな……」
巴の言葉に、卍はケムリを吐き出して真紅に染まった眼を細めると、笑みを浮かべて肩から下げたショルダーバッグにそっと手を忍ばせる。
「だから、コレが有るじゃない……」
ショルダーバッグに忍ばせた卍の手には、確りと冷たい R G D - 5 が握られていた。
「神の企てか宇宙の意志か……? なんにせよ、これから悪魔と大きな賭けをするわ! ケモノが支配するバビロンに囚われた魂を、開放するのよ」
「
二人は一度背負えるだけの
許しを得るためにユタに接触するも、また好きなだけ取れと言ってくれたユタに、卍は R G D - 5 を1パツ5万で譲って貰う。
「だけどお前も神経が図太いというか、図々しいというか、よくユタさんにパイナップルの話しができたなー! パイナップルが有る事を俺たちが知ってるって事はだよ、あのコンテナに有ったバッグの中身を俺たちが勝手に黙って見たって事じゃんかよ。ガチのゲイ雑誌やビデオが大量に有る事を俺たちが知ってるって事がバレバレな訳だからな。マジで生きた心地がしねかったぜ! 」
「ゲイ雑誌やビデオの事は一切触れずにスルーしたわ、ユタさんも触れてこなかったし、パイナップルの話のみ! 」
だから大丈夫みたいな言い方をして卍はケムリを吹かしたが、巴は余計に怖いわと眉を顰める。
船はアシッドな夕映えの空の下
次の日、船が晴海埠頭へ接岸すると、卍と巴は船底に止めてあるトラックに乗り込むため、ドライバー達が下りて行く階段へ向かう。するとすぐに二人は異臭に気付き、紅い眼をした互の顔を見合わせた。
臭うのである、猛烈に……。
これは不味いと二人は慌てて階段を下りて行く。ドライバー達は口々に、「何かくせーな! 何だこの臭い! 」と、異臭にざわつき、臭いの元を特定しようとしていた。二人は急いでドライバー達を掻き分け薄暗い船底へ辿り着くと、臭はいよいよヤバくなっていた。
トラックが何十台も止められた広い船底に自分たちのトラックを探すと、噎せ返るほどに強烈な
「ヤバイ! 」と、卍はトラックへ駆け寄り、積み荷を覗く係員達に声をかける。
「ゴメンなさ~い、凄く臭っちゃてますね……」
船の係員達に申し訳なさそうに卍は頭を下げ、世間知らずのバカ女を演出するように上目つかいで言った。
「これお客さんのトラック? 困りますよ、こんな凄い臭のする積み荷を持ち込まれては、何なんですか積み荷の中身は? 」
「これは……、大学の研究で実験に使う高山植物が積まれています。私もこれほど強い臭いがするとは思いませんでした。ただ、ご心配には及びません。人体には全く有害ではありませんから、むしろ、良いぐらいで……」
巴はしれっとトラックの運転席へ上がり込み、卍は係員にデタラメに書いて出した書類の不備をダラダラと指摘されていた。船底の正面の鉄の扉がゆっくりと開き始めると、幾筋もの鮮やかな光線が薄暗い船底に差し込見始める。
サンバイザーに挟んだ神の宿る木片に、巴は紅く染まった眼をやる。闇黒から光へ導くと聞いたマナのテレパシーが、一瞬脳裏を霞めた。
「あーうるさいうっさい! 体に良いって言ってるでしょ! ありがたく思いなさいよ! 」
しつこい係員を卍はあしらい、トラックのドアを開けて助手席に上がって来た。船首の鉄の扉が完全に開かれると、東京湾のよどんだ空気が入り込んで、
エンジンを掛けると、トラックの車内に Electric Dub が大音量で流れ出す。
「
闇に差し込む光を浴びて卍と巴が同時に言うと、